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通町シンカ論 1 「ドラえもんのポケット」―通町山下-

 「通町山下」には何でもある。私がこの店で買ったものを思い出すと、包丁研ぎ、たこ焼きを返すためのキリ、小ぶりのフライパン、魚のうろこ落とし・・・。私にとっては「ドラえもんのポケット」だ。家で使うもので足りないものは、とりあえず「山下」に行けば手に入るのである。

 「通町山下有限会社」は、大正5(1916)年に「金物通町山下」として創業した。かつては建築資材を主に扱っていたが、住宅建築の多様化やホームセンターの台頭により需要が次第に減少したため、1990年に3代目を継いだ山下・・さん(故人)が調理用具を増やしたのだという。さらに、合いかぎの作成-店舗前の看板にもあるように、合鍵がなくても鍵が作れるのだそうだ―もはじめた。

現在の店舗正面に掲げている大きな看板は縦2m横3.3mで、創業時の看板が戦時中に供出させられたため、戦後に2代目が複製したものだという。1990年代の商店街近代化事業で建物は新しくなったが、看板はそのまま引き継いでいる。

 店の正面入り口からいくつもの棚に商品が並ぶのが見えるが、中に入ってみると奥に奥にと棚が続き、どこまで続くのかわからない。間口に対して奥行きがふかいのは、江戸時代はじめに通町が作られた時の名残りだが、「通町山下」では奥まで陳列スペースが続いていることでそれが実感できる。

 店舗の外観は変わったが、看板と間取りは歴史を残している。商品は時代にあわせて変わってきた。長い歴史とその中で変化し続けた結果が、「ドラえもんのポケット」のような店なのだ。